こんにちは。翠こども・耳鼻咽喉科クリニックです。

春は入学・入園の時期ですよね。年度が変わり4月から保育園に入所し始めた赤ちゃんやお子さんも多いことでしょう。

そして保育園や幼稚園に通い出した途端に園から「熱が出ました」と呼び出される保護者の方も多いと思います。

中には毎週のように発熱を繰り返し「もう仕事が休めない、、、」と泣きたくなる場面もありますよね。

でももしかしたらそのおかげで将来お子さんが感染に強くなるかも知れません。

この記事ではそんな保護者に向けた耳より情報を簡単にお届けします。

保育園症候群とは?

保育園や幼稚園などの集団保育施設に通い始めた子供たちが、発熱や風邪症状を繰り返し経験することを「保育園症候群」や「保育園の洗礼」と呼ぶことがあります。主に2歳以下で保育園デビューした際に多いとされています。

医学用語ではなく「そう呼ぶことがある」程度の言葉ですが、読んだだけでイメージできますよね。便宜上この記事では「保育園症候群」と呼びます。

どうして起こる?

では、どうして保育園に行った途端に発熱を繰り返すのでしょうか?

保育園症候群の主な原因は、以下の3つです。

保育園症候群の原因
  • 家庭から初めて異なる母集団に接する経験
  • 未熟な免疫
  • 集団内での感染

いままでご家庭で保護者とともに過ごしており、両親や兄姉など限られた家族とのみ接していた環境は、感染症からも守られた環境でした。それが集団保育になることで、はじめての感染症に触れる機会が圧倒的に増えます。

大人や2歳以上であれば発症しなくても、免疫がまだまだ不十分な2歳未満だと新たな感染症をもらうたびに発症してしまいます。

また保育園では一般的にある一定以上の発熱を預けられるかどうかの判断基準とするので、「登園を控えるほどの発熱はないけど、鼻水や咳をしているお友だち」もたくさん一緒に過ごします。

当然ながら鼻水・咳が出ていてもみな気にすることなく遊び回るので部屋の中あちこちが地雷原になってしまいます。

保護者が仕事で預けることが多い保育園だと「少しまだ風邪症状はあるけど、熱はないし元気」と、まだ完全には回復していない状態で登園する場合もありますよね。

このようにお子さん自身と環境による複数の要因が一度に押し寄せることが原因です。

いつまで風邪や発熱が続く?

言われてみれば当たり前の保育園症候群。でも繰り返すと

  • いつまで発熱や風邪を繰り返すの?

と心配されるかもしれません。「もう有給がなくて、、、」という声も聞きます。

いつまで続くか?については各国から報告が出ています。国によって保育園の事情は異なりますが、よく引用されるフィンランド(*1)の報告では、

保育園症候群はいつまで?
  • 保育園デビューから2ヶ月〜4ヶ月がピーク
  • その後9ヶ月も経つとほぼ落ち着く

とあります。あくまで外国の報告で、保育園を休む回数を評価したものですが、累計2千人弱の保育園児たちを対象にした研究なので説得力があります。

これは日々の診療や我が子の経験とも合致するところです。

我が子は免疫が弱い?

  • 感染を繰り返してうちの子の免疫は弱い?

毎週のように風邪症状が出ると、うちの子は特別弱いんじゃないか?免疫が心配、と感じるかもしれません。

でも大丈夫です。保育園症候群はとてもありふれた現象でどんなお子さんでも程度の差こそあれ、必ず通る道です。

ワクチンデビューの記事にも書きましたがお母さんからもらっていた感染症に対する抗体が生後半年から1年で消失してしまうため、1歳以降はそもそも感染機会が多いものです。

そんなタイミングでさらに保育園デビューが重なるために急に感染機会が増えたと感じてしまうのです。

またそんな毎週のように熱を出していてもみな段々と発熱回数が減ってきます。歳を重ねるたびに目に見えて回数は減り、「久しぶりに熱が出ました」と来院される方も多いです。

そして小さい頃に発熱で悩まされたご褒美というわけではありませんが、もしかしたら将来お子さんが感染に強くなるかも知れません。

カナダの研究(*2)ですが、早期集団保育の経験者は小学校低学年において感冒症状にかかりにくくなると報告されました。

感染症にかかると身体に免疫ができますので数多く感染を繰り返すと免疫力がつくことはとても理にかなっています。

病院を受診するタイミング、発熱時の対応

「発熱がありました」と保育園で呼び出されて病院へ直行されるご家族も多いですが、お子さんがお元気そうなのであればご自宅で様子をみていただいても大丈夫です。でも

  • ぐったりしている
  • ぜーぜー、呼吸が苦しそう
  • 3日以上高熱が続く
  • 常に機嫌が悪い
  • 耳を特別気にする素振りがある
  • 解熱剤が家にない

などの時には病院を受診しましょう。

お子さんが発熱があるのにもう休めないという場面もあると思います。「発熱がある子を他人さまに預けるなんて」と罪悪感を感じる方もいるようですが、病児保育を利用するのも良いでしょう。

また風邪以外の感染リスクも増えますので、予防接種はしっかりと受けて備えましょう。

お困りの際や悩まれた際には遠慮なくご相談ください。

繰り返しになりますが、保育園症候群は誰しも通る通過儀礼のようなものです。必ずお子さんを元気にいってらっしゃいと送り出すのが当たり前の毎日がやってきますので、今はつらい時期かもしれませんがどうぞ安心してください。

*参考文献

1.  Schuez-Havupalo L, Toivonen L, Karppinen S, Kaljonen A, Peltola V. Daycare attendance and respiratory tract infections: a prospective birth cohort study. BMJ Open. 2017 Sep 5;7(9):e014635. doi: 10.1136/bmjopen-2016-014635. PMID: 28877939; PMCID: PMC5588939.

2. Côté SM, Petitclerc A, Raynault M, et al. Short- and Long-term Risk of Infections as a Function of Group Child Care Attendance: An 8-Year Population-Based Study. Arch Pediatr Adolesc Med. 2010;164(12):1132–1137. doi:10.1001/archpediatrics.2010.216

おすすめの記事