このページはHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの解説ページです。
HPVワクチンは定期接種の1つです。定期接種とは公費負担で自己負担なく接種できるワクチンです。
HPVワクチンとは?
HPVワクチンとは、ヒトパピローマウイルスに対するワクチンです。Human Papillomavirusの頭文字をとってHPVワクチンと呼ばれます。
実はヒトパピローマウイルス(HPV)といってもその中には大変多数の型があり、特定の型が悪性腫瘍を引き起こすこと、さらにがんを誘発しやすい16、18型という型は若年者に多いといわれます。
このハイリスクな16、18型を中心にいくつかの型をカバーするのがHPVワクチンです。
なおHPVワクチンは、既に感染したウイルスを排除したり、子宮頸がんの進行を抑制するものではありません。
ワクチンを接種することで、感染を予防することが重要です。初めての性交渉前のワクチン接種で予防効果が高まります。
後述しますが、日本のHPVワクチン定期接種は、主に女性の子宮頸がんを予防する目的のワクチンで、女性(女児)のみが対象です。
しかし、HPVは子宮頸がん以外にも口の中にできる中咽頭がんや肛門がんなどを引き起こす事も知られており、男性(男児)への接種へも大変有益です。ただ残念ながら日本では男性(男児)への接種は任意接種(自費)であるのが現状です。
このページでは、主に定期接種におけるHPVワクチンへ関心をお持ちの方を念頭に、女性(女児)へのHPVワクチンについて説明します。
なおキャッチアップ接種対象者も翠こども・耳鼻咽喉科クリニックで接種可能です。お気軽にお問い合わせください。
キャッチアップ接種対象者:平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性で過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない方
※このほか、平成19(2007)年度生まれの女性も対象となります。
キャッチアップ接種は2025年3月末までとなっています。キャッチアップ接種の方は3回接種となりますので、2025年3月までに3回接種を終えるためには、1回目の接種を2024年の夏頃には接種開始する必要がありますのでご注意ください。
キャッチアップ接種ってなに?あるいはその該当者がより詳しく知りたい場合は厚生労働省のページが詳しくわかりやすいので参考にしてください。
HPVワクチンの種類
現在日本ではヒトパピローマウイルスワクチンは3つ発売されています。
サーバリックス・ガーダシル・シルガード9の違い
基本的なポイントとして、がん関連で最もハイリスクな16、18型の2つ型(2価)をどのワクチンもカバーします。その2価に加えて、追加で他の型へも対応するワクチンを製薬会社が開発してきたという経緯です。
当初発売されたのが16、18型だけをカバーする2価ワクチン、サーバリックスです。
その後、さらに尖圭コンジローマを引き起こす別の2つ型に対するにもカバーする4価ワクチン、ガーダシルが発売されました(尖圭コンジローマについてはページ下「接種で回避できる病気」を参照ください)。
そしてシルガード9は、名前に「9」と付記されているように、ガーダシルでカバーする4種類に加えて5つの型をカバーするよう開発されたワクチンです。
ではこの3つのワクチンで、どれがおすすめなのでしょうか?
シルガード9がおすすめな理由
子宮頸がんを引き起こすHPVのうち60~70%が16、18型と言われており、この2つを予防するサーバリックス、ガーダシルは実際に子宮頸がんを60~70%程度予防するとされています。
一方でシルガード9は、16、18型以外の子宮頸がんの原因となりうる型もカバーするため、シルガード9では子宮頸がんを90%予防できるとされています。
サーバリックス(2価) | 子宮頸がん予防効果60〜70% |
ガーダシル(4価) | 子宮頸がん予防効果60〜70%+尖圭コンジローマ |
シルガード9(9価) | 子宮頸がん予防効果90%+尖圭コンジローマ |
子宮頸がん以外の悪性腫瘍への効果を省略すると上記の表になります。
対応する型が増えることのデメリットは全くないため、9価ワクチン シルガード9が最も効果が高く、おすすめです。
おすすめの接種スケジュール
以上より翠こども・耳鼻咽喉科クリニックでは9価ワクチン、シルガード9を推奨しており、ここではシルガード9のスケジュールを示します。
シルガード9の接種スケジュール①
シルガード9の定期接種対象者は小学校6年~高校1年相当の女性ですが初回接種時の年齢によって接種回数が異なります。
シルガード9の1回目は9歳以上で接種可能で、15歳未満(14歳以下)で1回目を始めることができれば2回接種でおえることができます。(ワクチン自体は9歳以上で接種可能ですが、定期接種としては小学校6年生以上となります)
15歳以上で1回目の接種をはじめた場合には3回接種が必要です。
- 1回目を15歳未満(14歳以下)で開始→2回で終了
- 1回目を15歳以上で開始→3回必要
今後接種を検討する方の標準的なスケジュールとしては、1回目接種は中学校1年生が目安です。
広島市の方針にならい翠こども・耳鼻咽喉科クリニックでは中学校1年生での接種をおすすめしています。
15歳未満で1回目を接種した方は、2回目は5ヶ月以上あけて接種します。標準的には6ヶ月での接種がおすすめです。
- 1回目を中学校1年生
- 2回目を6ヶ月後に接種
シルガード9の接種スケジュール②
もしも1回目のシルガード9接種が15歳以上の場合には3回接種が必要になります。
この場合、1回目接種を終えて2ヶ月後に2回目、さらに4ヶ月後に3回目を接種します(1回目の6ヶ月に3回目接種)。
- 15歳以上で1回目を接種
- 1回目の2ヶ月後に2回目
- 2回目の4ヶ月後に3回目
接種で回避できる病気
子宮頸がん
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交渉によって生殖器やその周辺の粘膜に感染するウイルスです。ワクチンが開発されていない世代の研究で、性交渉の経験がある男女のほとんどが感染していたとわかっているほど実は「ありふれた感染症」です。しかも、感染しても長らくは症状を起こさせないため感染したことを自覚することができません。
HPVは感染しても多くの場合に自然に消滅しますが、一部は体内で増殖と潜伏を繰り返す「持続感染」となります。そんなHPVには多くの型があり、一部が悪性腫瘍(がん)を発生させることがわかっており、最も問題なのは女性の子宮頸がんです。
HPVに感染した方の一部で持続感染となり、子宮頸部の細胞を徐々に癌化に導き、最終的に子宮頸がんを発症することがあります。その数は日本で毎年1万人から1万5千人と非常に多い数字です。さらに子宮頸がんにより毎年3000人近くが亡くなる大変怖い病気です。
しかも子宮頸がんは20代から40代の働き世代、子育て世代に多いことからマザーキラーと呼ばれることもあります。
命を失わなくとも治療により子宮に対し手術を行い、妊よう性を喪失する(妊娠することができなくなる)方が毎年1000人もいます。
もちろんHPVに感染しただけで子宮頸がんを発症するということはありませんが、子宮頸がんの95%はHPV感染によるものとも言われており、とても大きな原因です。
なお、子宮頸がんについてはワクチン接種のみならず、20代以上になれば定期的な検診もとても重要です。これを読んでいる親世代の方で定期検診を受けていない方は、最寄りの婦人科で子宮頸がん検診を必ず受けましょう。
その他の感染症
HPVの感染により引き起こされる病気は子宮頸がん以外にも、肛門がん、膣がんなど性器粘膜のがんや、尖圭コンジローマというイボや再発性喉頭乳頭腫という良性腫瘍もあります。
その他、中咽頭がんといって、お口の中の扁桃(口蓋扁桃)を癌化させることもあります。
良性腫瘍である尖圭コンジローマは性器周辺にイボができる病気です。精神的な苦痛の他、妊娠時に大きくなって参道を圧迫し帝王切開が必要になってしまうこともあります。
またHPV感染を有した母体から生まれた子どもが産道感染をおこし、息の通り道(気道)に難治性のイボが反復してしまう再発性喉頭乳頭腫は、何度も何度も手術が必要になることがある難治性の病気です。
このようにHPVは生命に直結する悪性腫瘍はもちろん、日常生活を大きく損なう良性腫瘍の発生にも関与する感染症です。
ヒトパピローマウイルスワクチンの予防効果
9つの型に対応するシルガード9ではHPVの感染を90〜100%減少させ、約98%の子宮頸がんを予防できたという報告があります。複数の報告がありますがいずれも90%程度の予防ができると考えられています。
先行発売されている2価ワクチンのサーバリックスや4価ワクチンのガーダシルではなく、シルガード9を翠こども・耳鼻咽喉科クリニックで推奨する理由にもなります。
またワクチンの効果は20年くらい続くとされています。日本より10年近く早くからワクチン接種を導入した欧米、北欧の研究で実際に子宮頸がんの数が減少していることも報告され、日本でも近年多く有効性が報告されています。
感染予防ですので、はじめての性交渉より前に接種を済ませることが重要です。
ヒトパピローマウイルスワクチンの安全性と副反応
HPVワクチンは筋肉注射です。そのため接種部位の疼痛、発赤(赤く腫れる)といった一般的な筋肉注射における副反応と同等の反応を示すことはよくあります(80〜90%程度)。ただ多くは軽度で数日以内に自然回復しています。
接種部位の局所反応を除いた副反応については、シルガード9を接種後に、ワクチンと関連が不明な症状や、短期間で消失したものを含めても接種者1万人に対し8人という少ない数字です。
逆に言えばHPVワクチンが他のワクチンに比べて安全面で劣るという事実はありません。
実際に子宮頸がん撲滅を目指しWHO(世界保健機関)は世界各国で接種を勧奨していますし、アメリカでは11歳〜12歳の男女ともに対し定期接種としています。
ただし、HPVワクチンの副反応については2013年以降しばらく騒動があったことをご存じの方もおられると思います。ちょうどいまのお母さん世代が接種できていない理由にもなっています。
これは、HPVワクチンを接種後に、接種した部位とは関係のない広い範囲の痛み、手足の動かしにくさ、自分の意思に関係なく体の一部が動く(不随意運動)など多様な症状が起きたとされた事例です。
しかし、その後の国内や海外の大規模な研究で、こうした症状はHPVワクチンの接種と直接因果関係がないことがわかりました。
HPVは9歳以降の女性を接種対象とすることが多いことから、一般的なワクチン接種者よりも年齢が高く、なおかつ大人ほど成熟していないこととが背景にあり、過去のワクチン接種時の嫌な思い出、怪我・血液を見ることへの「不安」が昂じて「予防接種ストレス関連反応」という症状を引き起こすことがあるようです。
つまり、HPVワクチンに特有なものではなく、この年代の接種者に共通するワクチン接種への反応とわかっています。
ただこうした反応は、接種直後や、接種後1週間程度で起こる場合もあります。
また、実際に症状が起こり、改善に困った場合にも頼れる「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に症状が生じた方に対する相談窓口一覧」という行政の相談窓口もあります。
- 接種部位の腫れ、痛み、赤み(80〜90%);ほとんどが自然回復
- 接種者の年齢に特有の、ワクチンの成分とは直接関連のない「予防接種ストレス関連反応」がまれに起こることも
さらに詳しく知りたい方
日本小児科学会のページは見やすい構成ですが、ワクチンについてはサーバリックス、ガーダシルのみで、シルガード9については記載がありません。
HPVやHPVワクチン全般について比較的わかりやすいのが厚生労働省のページです。簡易版と詳細版のリーフレットが用意されています。
シルガード9については厚生労働省の専用ページもわかりやすいです。
さらに詳しく知りたい方は、日本産科婦人科学会の解説ページが大変おすすめです。先行する海外での研究データや、日本国内での研究を詳しく、かつ分かりやすく解説してくれています。